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<女性的神性の埋没と

マリア崇拝>

「三位一体論」の男性化と、

マリアという女性性の利用

「三位一体論」の男性化

キリスト教神学者で哲学者のジョー・ホランド氏は、以下の『旧約聖書』の「創世記」1:27は、神の神性が 男女で表された二つの性質をもつことを示していると言います。

 

1:27 神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された

 

このうち女性的神性は、たとえば慈悲や優しさだけでなく、自然(物質界)に内在する神秘をも意味するとされます。それは古来「母」のイメージで語られてきました。けれどもキリスト教神学が、「神の国」に入るためにこの世を超越するという男性的神性を強調するようになると、自然と女性的神性は埋没していくのです。

 

このことを端的に表しているのがキリスト教の最も重要な教義のひとつである「三位一体論」です。キリスト教徒の方たちが「父と子と聖霊の名において、アーメン」と祈られるのを聞いたことがあるでしょう。この「三位一体論」の「父」は父神、「子」はキリストを意味し、この二つと「聖霊」は、唯一の神が三つの姿となって現れたもので元来はひとつ、とするものです。ただそこに「母」はいないのです。

実は原始キリスト教(「シリア文書」)では「聖霊」は「母」と記述されていたといいます。けれども男性性の強いキリスト教正統派が主流となると、神学の中で「聖霊」は男性あるいは中性的イメージに変えられ、さらに「父」と「子」ばかりが強調されて「聖霊」自体が周辺化されるようになったのです。(この絵の中では、聖霊は鳩として描かれています)

 

ホランド氏は、キリスト教神学において女性的神性が軽視されたことが今日の自然破壊の源流にあると言います。

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マリアという女性性の利用

キリスト教徒でなくても聖母マリアを知らない人はいないでしょう。神に選ばれ、処女で神の子イエスを産んだとされるマリアは、キリスト教の中で間違いなく最も有名な女性です。

 

けれども意外なことに、聖書の正典の中にマリアに関する記述は決して多くありません。もちろんマリアは神ではありません。それなのにここまで人々から崇拝されたのは、マリアがキリスト教神学にない女性性を象徴する存在だからではないでしょうか。

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ユダヤ・キリスト教の父神はすべてを超越する唯一の絶対神。ヘレニズムの哲学者たちの言葉を借りれば「宇宙を統べる法則・真理」です。『旧約聖書』でヤハウェとして語られるこの神は、救いの神であると同時に、支配し、怒り、罰する厳しい神です。

 

一方「神の国」から遠い物質世界「地の国」に生きる人間は苦しみや悲しみに涙し、間違いを犯す弱き存在です。人々は慈愛や許しといった母性的な優しさを求めたのです。

 

またキリスト教がユダヤ人以外にも拡がり始めた2世紀頃は、まだ地中海沿岸各地には地母神信仰にルーツをもつ女神信仰が残っていました。キリスト教の教父たちにとって、異教の人々にキリスト教を布教するためにマリアは重要でした。マリアは異教の女神と容易に重ね合わせることができたからです。

こうしてマリアはキリスト教の中で、理想の女性として様々な重要な役割を与えられるようになります。「罪のない純粋な魂をもつ美しきおとめ」「神の花嫁」として女性たちの模範となっただけでなく、キリスト教徒すべての精神的な母とされました。子どもたちを見守り育て、ともに悲しむ存在として、マリアは人々の心に寄り添うのです。

けれどもマリアは権力の正当化にも利用されました。教会によって王冠を授けられ、天と地の女王の位まで与えられたマリアは、「皇帝や王は神の権威を行使する者であること」を保証する存在にもなったのです。

 

また中世以降、マリアは父神と人間をつなぐ「架け橋」となり、「教会=マリア」とみなされるようになりました。人々は父神へのとりなしと救いを求めてマリア聖堂にやってきて祈ったのです。

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時代によって様々な役割を与えられ、キリスト教にとってなくてはならない存在であるマリアですが、ローマ教会はマリアを神とは認めてきませんでした。マリアに象徴される女性的神性を利用しつつも、「三位一体論」を男性化したように、女性的神性を神学から排除し続けたのです。

 

もうひとつ、マリアがなぜ処女でイエスを身ごもり出産したのかについて言えば、それは「セックスが人類の「原罪」とみなされていたから」と言えます。神であるイエスは「原罪」によって産まれてはならなかったのです。ここにもユダヤ・キリスト教に流れる「アンチ肉体」、「アンチ 生命の再生産」を確認することができます。

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