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​ブラザーサン・

シスタームーン

聖フランチェスコの自然賛美

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アッシジの丘から望むウンブリア平原

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ブラザーサン、シスタームーン

この美しい曲が流れる同名の映画をご存知でしょうか。12~13世紀にイタリアのアッシジで生きた「フランチェスコ修道会」の創始者、聖フランチェスコを描いた1972年の映画です。

 

聖フランチェスコはキリストと同じように物を所有せず清貧の中で弱者に奉仕し、「神の国」に至る道を説きました。また彼は自然とすべての生きものを兄弟姉妹と呼んで愛したことでも有名です。

フランチェスコと信仰の道

もともとフランチェスコは裕福な毛織物商の家に生まれ、何不自由なく、時には友人たちと遊びふけることもあった「お金持ちのぼんぼん」でした。けれども隣町ペルージャとの戦いや大病を経験したことで世界を見る目が変わり、彼は祈りや瞑想を行うようになります。そんな時に「私の教会を建て直しなさい」という神の声を聞き、家を捨て、神に従うことを決めるのです。

 

映画でも、激しく「回心」を迫る父に対し、フランチェスコが着ているものを脱ぎ捨て、「もうあなたの息子ではありません。すべてをお返しします。私は生まれ変わったのです」と差し出すシーンが印象的に描かれています。

 

一切の所有を拒否し、乞食同然の姿で荒れ果てた教会の石を積み、病人の世話をし、日々の食事も托鉢から得る生活は厳しいものでした。それでもフランチェスコにとって清貧と奉仕は福音書に書かれたイエスの教えであり、悦びの道だったのです。

そんなフランチェスコに心を打たれ、はじめに仲間に加わったのはかつての友人たちでした。彼らはイタリア各地に伝道に出かけ、行く先々で仲間を増やしていきます。当時のローマ教会は富と権力を得て贅沢に暮らし、庶民の救済に背を向けていました。フランチェスコたちにイエスの姿を見た人たちは多かったのです。

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映画では、当初は乞食のようなフランチェスコたちを相手にもしなかったローマ教皇が、フランチェスコに直接会って感銘を受け、豪華な冠と衣装を脱いで彼の足に口づけします。実際に教皇がそのようなことをしたとは思えませんが、後にローマ教皇庁は正式にフランチェスコたちの活動を許可し、またフランチェスコが死んで2年後には早々に聖人に叙しています。

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自然の賛美

フランチェスコは神のすべての被造物を賛美しました。中でも彼は動物たちと心を通わせることができたと言われ、小鳥や動物たちにさえ神の道を説いたといいます。彼が死の床で述べたとされる「被造物の賛歌」には「(兄弟たる)太陽」「(姉妹たる)月」が出てきます。これが映画のタイトルとテーマ曲の「ブラザーサン・シスタームーン」の由来です。フランチェスコは太陽や月、そして大地、空気、火など自然のすべてを「兄弟姉妹」として賛美したのです。

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「小鳥に説教する聖フランチェスコ」 ジョット画

なぜ聖フランチェスコの話をするのかというと、それは彼がイエスと原始キリスト教の姿を体現していたと言えるからです。このサイトでは今日の環境破壊につながる西洋思想の根底に、自然を含む物質界に対する蔑視があったことを指摘しました→ ヒエラルキー的二元論の形成。そのような意識が人々の意識の根底に根付いたのはキリスト教を通してだったのです。

れども、イエスが自然を軽んじた話は福音書には出てきません。そして原始のキリスト教徒も自然を神の被造物として賛美していたのです。それが劣等のものとして軽視されるようになるのは、後にキリスト教「正統派」の教父たちによってつくられたキリスト教神学においてでした。

自然を賛美するキリスト教の系譜

キリスト教神学の中に自然賛美がないわけではありません。たとえば「Book of Nature」という言葉があります。「自然を通して神の恩寵を知ることができる」という意味で、13世紀の教父トマス・アクイナスが初めて提唱したとされます。けれども中世キリスト教では不完全で苦しみに満ちた「地上の国」を超越して完全・永遠の「神の国」へ入ることのみが強調されたため、自然のもつ意味は小さかったのです。

 

ただし、キリスト教神学の中でどんなに自然界が軽視されてきたとはいえ、それは人間が自分たちの利益のために好き勝手にしてよいことを意味しません。事実、環境破壊が深刻になった20世紀後半からは、歴代のローマ教皇が人類による自然破壊への懸念を表明し、現代文明のあり方を変えるよう訴えています。

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なかでも現在のフランチェスコ教皇は環境問題解決のために最も積極的に活動している教皇です。彼は2013年に教皇になるにあたって、かねてより敬愛していた聖フランチェスコの名を選びました。フランチェスコ教皇は2015年に環境問題をテーマとした回勅「ラウダト・シ」を発表し、神の恩寵に満ちた豊かな自然とすべての生命を守り、将来に引き継いでいくことはキリスト教徒の義務と述べ、そのために為すべきことを具体的に指摘して行動を起こすことを促しています。

 

また自らも各国の国家元首や大企業のトップと会談し、政策や経済活動を見直すことを求めたり、キリスト教関連組織による化石燃料業界への投資をやめるよう促すなど、その活動には目を見張るものがあります。

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最後に・・・フランチェスコにも心を通わせていたキアラという女性がいました。彼女は貴族の娘でしたがフランチェスコに帰依して修道の道を選びました。彼女はフランチェスコ会の女子修道院を開き、死後にはやはり聖人に叙せられています。キアラはフランチェスコが死の床についた後はそばに付き添ったといいます。映画には二人の淡い恋心も描かれています。

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フランチェスコの初期の仲間たちはアッシジの聖フランチェスコ大聖堂の地下に、フランチェスコを取り囲むように埋葬されています。そんな風に埋葬される人たちが他にいるでしょうか。彼らの絆と愛がいかに深かったかを感じさせずにはいられないのです。

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真ん中が聖フランチェスコの墓。取り囲むように葬られているのが最初の仲間たち。

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<映画・DVD情報>

​「ブラザー・サン シスター・ムーン」

  • 制昨年 : 1972

  • デジタルリメーク版 : 2006

  • 監督:フランコ・ゼフィネッリ

  • 出演 : グラハム・フォークナー, ジュディ・ボーカー, アレック・ギネス

  • 字幕: : 英語, 日本語

  • 販売元 : パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン

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