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ブータンのスーパーヒーローと国民総幸福(GNH)

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更新日:2021年9月1日


ブータンの人々から絶大な信頼と尊敬を集めているのは、第4代国王ジグミ・シンゲ・ワンチュク。現在の王様のお父さんです(以下、第4代国王と呼びます)。彼は34年の治世の中で、自らの手で国王の権力を民衆の手に受け渡した人です(絶対王政から立憲議会制民主主義へと移行させた)。さらに、今や世界的に有名になった「国民総幸福(GNH)」という理念によって国を近代化と経済発展に導いた人でもあります。


国民の尊敬の的! ブータン第4代ワンチュク国王

日本でブータンが知られるようになったのは、2005年のブータンの国勢調査で97%もの国民が「自分は幸せだ」と答えたことがきっかけでした。ブータンは経済的には決して「豊か」ではなく、国際的な基準では貧困層に入る人々も一定数いる国です。それなのになぜ97%もの国民が幸せと答えられるのだろうと、私たちは驚いたのです。以来ブータンは「幸せの国」と呼ばれ、その幸せの理由を知ろうと世界中から注目されるようになりました。



若き国王と国民総幸福


卓越した指導力で国を導いた第4代国王ですが、子どもの頃は学んでいたイギリスの学校の先生たちを悩ませる、なかなかの「問題児」だったそうです。それでも彼は、国外の学校で学びながら、将来自分が受け継ぐブータンにとってどのような発展の形が望ましいのかを考えていたようです。そして西洋諸国の物質的繁栄を見ても、それはブータンがめざすべき方向ではないと確信していたのです。10代の皇太子が目にした1960年代の西洋諸国では、経済発展の裏ですでに環境破壊や経済格差、心の荒廃が進んでいたのです。


1972年、名君と呼ばれた第3代国王が急逝し、彼は16歳の若さで即位します。そして父の遺志を受け継いで、民主化と国際化、そして近代化に取り組みます。その頃すでに若き国王は「国民総幸福(GNH)」という考え方を構想していたようで、1976年(国王21歳)には国際会議の場で「国民総幸福は国民総生産より大事(金銭的豊かさより心の豊かさの方が大事、ということ)」と表明しています。


国王の類まれな資質


国王が民主化を進めたのは「一人のリーダーに頼る国づくりは危うい。国は国民一人ひとりがつくるもの」と信じていたからです。そうは言っても民主化をするには、中央集権型の制度を解体して地方自治体をつくり、議会や政党をつくり、憲法をつくるなどしなくてはなりません。国家の骨組みを総取り替えする大改革は、国王を含め誰もやったことがありません。けれども国王は30年以上かけ、自分自身も学びながら国民と共に実行していくのです。

ブータンの政治と宗教の中心を担うタシチョ・ゾン

国王はまた「権力には絶対こだわってはいけない」という信念ももっていました。ですから議会の決定に対する国王の拒否権を放棄しただけでなく、憲法に国王を65歳の定年制にすること、そして議会に国王を辞めさせる権限をもたせることにこだわったそうです(これらは数年の国民的議論の末に認められます)。


さらに国王は「超人的な謙虚さをもつ人」とも評されました。身分にかかわらず、どんな人に対しても全霊で相手の言葉と心の声を聞こうとする姿勢をもっていたといいます。そして率直な反対意見を喜び、意図的に自分の周りにイエスマンを置かない雰囲気をつくっていたそうです。


ある時「普通の権力者にはできないことをなさっておられますね」と言われた時に、国王は「私は普通の人間です。それなのに国王の第一子として生まれて国を司る仕事につかなくてはならなかった。これは非常に恐ろしいことです。だから常に謙虚さをもつように肝に銘じています」とおっしゃったそうです。


う~ん、なんて立派! そして、このような国王が国づくりの支柱に据えたのが「国民総幸福(GNH)」です。



国民総幸福(GNH)

世界のほとんどの国が経済成長という金銭的な「発展」だけをめざしているのに対し、第4代国王は、「発展」とは国民の幸せの量を増やすことであり、それには経済的(物質的)な豊かさの他に精神的な豊かさも必要だとしました。そして物質的充足だけでなく、家族や地域との和、大自然との和、そしてアイデンティティーとして共有できる歴史や文化があってはじめて幸福と言えると考えたのです。


こうしてGNHには以下の4つの柱が据えられました。


1.公正で公平な社会経済の発達(経済的自立へ向けた経済成長を含む)

2.文化的、精神的な遺産の保存、促進

3.豊かな自然環境の保全と持続可能な利用

4.しっかりとした統治


今ではこの4つの柱の下に9つの分野、さらにその下にサブ指標ができており、5年毎に国民に聞き取り調査が行われて、国民が何に問題を感じ、何に満足しているかなどが細かく分析されています。



また何か大きなプロジェクトが計画されると、それが本当に国や地域住民の幸福につながるのかということが、これらの指標をもとに検討されます。たとえば近代化に必要な外貨を得るために森林を伐採して海外に売るという案が出された時は、国王と官僚が議論を重ねた末に廃案としたそうです。木材を売って外貨を得るより、森林を保全する方が国と住民の幸せに貢献すると結論づけたのでしょう。



「下から上へ」と「対話」


国王の国づくりは、国王や大臣が政策を決めて下へ伝達するのではなく、上で決めた政策を国民に下ろし、国民との対話の中から彼らの英知を聞き取り、それを取り入れて上でまた改善するというやり方をします。たとえば憲法をつくる際には、その草案を全国民に配布し、国王と皇太子がすべての村、すべての学校を訪ねて草案について話し合ったそうです。小さな国だから(九州ほどの面積)できることと思うかもしれませんが、険しい山と谷の国土。徒歩でしか行けない村々のすべてを回るのは大変なことです。けれどもそうして国民は子供でさえも直接国王に意見を言い、国王はそれらに真剣に耳を傾けたといいます。


「下から上」と「対話」による国づくりは、政策をより良いものにするだけでなく、国民に自分たちの国のことを考えさせ、また大臣や役人に国民の目線に立って働き、国民の声に耳を傾ける姿勢を植え付けることになります。つまり国王は国民も役人も「育てて」いるのです。これを何十年も続けているわけですから、万一国王や首相に何かあっても、国のあり方にブレが出ることはないのです。


近代的に整備された首都ティンプーの中央広場

ブータンでは1999年にテレビとインターネット、2003年に携帯電話が解禁となって、人々は世界中の情報に触れるようになりました。首都にはショッピングセンターもでき、GパンとTシャツ姿で夜通しクラブで踊る若者もいるそうです。この国でも近代化は人々を変えていってしまうのでしょうか。また魅力的な仕事の機会が少なかったり、十分な福祉がないなど、ブータンにはまだまだ多くの問題があります。それでも「国民総幸福」という理念と手法を国王と共につくってきたブータンの人々は、この国ならではの方法で問題を解決していくのではないかと思われるのです。


世界で唯一、物と心の両方がそろった豊かさをめざす国づくりをしているブータンから、私たちが学べることは多いのではないでしょうか。



そして第5代国王へ


第4代国王は2006年に51歳の若さで王位を皇太子に譲り、山腹の慎ましい家で引退生活を送っています。一方父王と共に国中を歩き、28歳で王位に就いた第5代国王も「国民総幸福」による国づくりを進めています。2019年に王妃を伴って来日した時には、連日マスコミが動向を報道して大騒ぎになったのは記憶に新しいところです。彼もまた父王と同じように謙虚で暖かな心をもち、あっという間に日本人の心をつかんだのです。



スーパーヒーローが続くブータン。今後も目が離せません。  

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